コイビト

俺と不二は幼い頃から親友。何をするにもいつも一緒だった。これからも、ずっと先の未来までそうだと思っていた。今日までは。

青い空。白い雲。清々しい、朝。んー、今日は少し暑いな。そんな事を思いながら、俺はいつもと同じ様に窓を開けて深呼吸した。
「おっはよー!!」
下を見ると、驚いた様にこちらを見る、同じ学校の制服を着た子達。そして、ふんわりとした栗毛の、彼。
「おはよう、英二、近所迷惑だよ」
不二はクスクス笑いながら俺の家の前で止まった。
「今行くー!待っててねん!」
そう元気よく返事を返し、階下に降りる。出来上がったトーストを口にくわえ、漫画の様に家を飛び出す。玄関にはもう不二がいた。
「おはほう、ふひ」
トーストを銜えながら不二に挨拶する。
「ちゃんと食べ終わってから。ね?」
「ほへんははい」
不二が俺の食べかけのトーストを口から引き出した。
「はい。おはよう、英二」
「おっはよ!不二!」
スニーカーを履いて、紐も結んで、俺は台所にいる姉ちゃんに「行ってきます!」といいながらドアを開けた。閉じかけのドアの隙間から、姉ちゃんの「行ってらっしゃい」と言う声が聞こえた。
「あっついね〜!」
いつも普通に持てているテニスバックでさえ、重く感じる。
「英二はホント、暑がりだよね」
不二がくすっと笑う。俺とは対照的に不二は爽やかそうだった。
「そーなのかなー。でも俺、時々不二ってすげーって思うよ」
「え?なんで?」
「だって冬でも夏でも、いつでも平然としてるじゃん」
小首をかしげて不二の顏を見た。そこにはいつもの、笑み。そんな表情を見て、思わずドキッとしてしまう。クラスの女子が、言ってた事を思い出したから。
「……もしかして不二って……“黒魔術”とか使ってるの……?」
珍しく、不二の目が開いた。
「うーん……勉強中……かな」
不二はにっこり。
俺はびっくり。
「そんなに驚かなくても……冗談だよ」
また不二は笑った。
「……そっ、そうだよね!へ、変な事聞いてごめんっ!」
「そういえばさぁ、最近付き合ってる子、よく見るよね」
ふと、不二はそんなことを言った。確かに、前を見れば手をつないで歩いてる子達が結構いる。でも別に俺は、今は付き合うとか付き合わないとかそんなことには興味がなかった。テニスが出来ればそれで、よかった。
「確かに……。でも、俺は今はテニス!全国大会目指してるかんね!!」
不二もでしょ?
そんな事を言おうとした。不二も、テニス一筋だと思っていたから。
「そうなの?」
逆に聞き返された。不二は足を止めて、俺を見る。
「僕は、違う」
驚いた。不二が、彼があまりにも真剣な声で、真剣な目で俺を見るから。
「僕はね、英二。練習中でも、君を見てる」
「え……」
「……それに…………たまに、君のことを───」

ヒトリジメしたくなる

 

 

ざあっ

木々が揺れる。葉のこすれる音がする。
今、不二は何を言った?

「不……二……?」
「僕は、君が好きだよ」
顏が、熱い。鼓動が強くなる。早くなる。
不二の手が、俺の顎を捕まえて、俺達はキスをした。
「ふっ不二!?」
「手塚とかには、内緒。だよ」
にっこり満足そうに笑う不二。
俺は恥ずかしくて、俯いていたけれど、不二が俺の手に、手を絡めて来るから。ぎゅ、と俺は強く不二の手を握った。

「あ」
「なっ何!?」
「そんなに驚かなくていいよ。部活、遅刻するだけだし」

「てっ、手塚に怒られるよっ!」

「いいよ。たまにはゆっくり行こう?」

 

 

俺と不二は、親友だった。
でも、親友は終わり。これからは、コイビト───。

 

fin