最後の委員も丁寧な挨拶を残してから扉を閉めた。
生徒会室には必然的に生徒会長である跡部と、跡部を待っている俺の2人だけになる。
それを切欠に隣の席をキープすると、丁度壁時計が正面だった。
何をするにも委員の仕事と言うものは優先されるのだから、当然部活の時間は削られる訳で。
こんな事をしても優等生である跡部の内申は大して変わらないし、テニスを後回しにしてまでやる価値はあるのだろうか。物好き派手好きにも程があると常々思う。
ああ、将来はきっと仕事人間になるだろう、俺一人ヒモになろうとこのお坊ちゃまは困りそうもない。
愛しい彼と贅沢な毎日を送れるなんて万々歳だ。父さん母さん、息子の将来は安泰です。
「……何考えてんだ」
不意に上げられた面は怪訝と顰められている。
綴られていく文面をぼんやりと眺めていた俺は不意打ちに瞬いた。
「嫌やわ、俺はシチュエーションに任せて押し倒すような男やないで」
「はぐらかすんじゃねぇよ」
顎を引いて上目遣いを意識してみたが、無駄に終わったらしい。もう少しきゅん、だとかはないのだろうか。
次の瞬間にはその呆れ顔は机に向き直っていて。
……構って欲しかったのだろうか、俺は。
これ以上問い詰められなかったのは有り難いが、会話を切らしてしまった事を後悔する。
何か、と思考を巡らす内にふと、昼間の出来事が頭によぎって。
「なあ跡部、一緒に死んでくれへん?」
一瞬その筆が止まったように見えたが、それは予想と願望の上に成り立った気の所為と言う奴かも知れなかった。
「……って、言うたらどないする」
一瞬強張ったような空気が緩やかに取り戻された。
硝子のような瞳は冷たそうなのに、目尻が下がるだけで印象が変わる。
「バァカ、死なねぇよ。お前が死のうが死ぬまいが」
跡部は馬鹿にしたように鼻先を鳴らした。
「テメェの分まで生きてやるよ」
「……ちょお、まだ生きてんで」
あまりに格好良く、凛とした声音。
高々と吐き捨てるものだから、死ななければいけないような気になったがそうもいかない。
俺はまだ、この王子様の手を離す訳にはいかないのだ。
「下らねぇ事言ってんじゃねぇよ、行くぞ」
如何やら仕事を終えたらしい。
立ち上がる跡部に合わせて腰を上げると、ノートで頭を叩かれた。
……王子ではなく、女王様の間違いかも知れない。
まあ、良いか。
不適に笑う彼があまりに眩しかったから。
目を細めて、背中を追った。
end