始まり〜出会い〜


テニスなんか、もう、どうでもよかった。だけど、思ってたより彼は自分を求めてくれた。でもそれは、俺の力だった。
俺じゃない。俺の、チカラ。

だって彼が欲しいのは、“完璧”
空と海がなくなっても、それは覆さない。覆られない。

そんなことを一瞬でも考えたら、目から涙が零れてしまう。無意識に。
そういう時に零れる涙は透明で、輝いていて。いっそ、このまま涙になってしまいたくなった。
涙で滲んだ視界から見える世界はモノクロの様で。俺はその中で溺れていて。
夢を、見たかっただけなのに。長い、長い夢を。

 

 

 

「おい、芥川」
不意に、凛とした声が降ってきる。顔をあげると、俺の机の前に、ガッキューイインチョーの跡部くんが立っていた。
「…………」
寝起きの俺の頭は、ぼんやりしていて、彼がなぜ俺に話し掛けてきたのかを、すぐには解らなかった。
じっと、何も言わずに彼の目を、見る。

深い深い 蒼。
吸い込まれそうな、真摯な目線。口からは息しか出なく、何も言えない。

たまたま同じクラスってだけで、話したことは今までだって一度もなかったのに。
今更、なんで俺?

沈黙に飽きたのか、跡部くんは口を開こうとした。
「……おい」
「跡部くんってさぁ……綺麗だね〜」
体を起こし、のびをしながら言う。
「は……」
「で、何?」
開口1番に「綺麗だ」なんて言われて、戸惑う人間なんていないだろう。跡部くんは眉間に皺を寄せて、俺を警戒した。
欠伸を一つしてから、肘をついて彼の言いたいことを促す。
でも、そういう賛美な言葉は、彼は聞き飽きているのだろう。

「……いや……面白い奴だな」

跡部くんはフッと笑みを浮かべて、手に持っていたプリントを俺に差し出した。
「部活の入部届けだ。今日の授業が全て終わるまでに、書き込むように」
「ふ〜ん……」
俺は渡された藁半紙をヒラヒラさせて持て余した。
中位の文字で、「部活のしおり」なんて書いてあった。

「……俺はお前がテニスが出来ると聞いたんだが」
一瞬、ドキッと胸が震える。確かに俺はテニスが出来る。それは正解だ。でも所詮中学生の遊び程度。部活にしてまでやろうなんて、思ったことは一度もなかった。
「……一応ね」
これ以上のことを聞かれたくなかったので、プリントをさっさとしまって机に突っ伏す。目を閉じて、教室の喧騒に耳を傾けていた。

「俺は、頂点にいく」

急に、目が開いた。

目の前にいる、綺麗な顔をまじまじと見た。その顏は、決して冗談は言ってない、真面目な顔だった。

「へ〜」

笑顔が、広がった。

跡部が、あんまり奇麗な顏で言うから、

「じゃあ着いていく!」

なんて言ったのかもしれない。

 

 

続く

 

 

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